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大阪高等裁判所 昭和56年(行コ)38号 判決 1985年10月15日

控訴人(原告) 米田三平 外三名

被控訴人(被告) 大和郡山市長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取消す。

2  被控訴人が控訴人米田三平、訴外亡和田徳太郎に対しそれぞれ昭和四七年五月一日付通知書でした下水道事業受益者負担金賦課決定はいずれもこれを取消す。

3  被控訴人が控訴人米田三平に対し昭和四八年五月一五日付通知書でした下水道事業受益者負担金賦課決定はこれを取消す。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二当事者の主張

一  当事者双方の主張は、次の二に付加するもののほかは、原判決の事実摘示のうち当審の当事者に関する部分のとおりである(ただし、原判決三枚目表六行目の「事業費として一九億二三〇〇万円を見込んで、」を「総事業費として二六億九五〇〇万円を見込み、」と改め、六枚目表六行目の「本件処分は」から同九行目の「異なるところはないのみならず、」までの記載部分を「本件処分は、本件公共下水道事業によつて受益すると否とにかかわりなく賦課対象区域内であればその土地面積に応じて一律に課されるのであるから、一般的標準により一律に徴収されるところの租税と異なるところはないのみならず、」と改め、同枚目裏三行目の「憲法八四条」の次に「地方自治法二二三条」を加え、七枚目裏一行目の「また」の次に「税負担に加えて更に負担を課することを相当とする程度に」を加え、九枚目裏一一行目の記載部分の次に、行を改めて、「なお、同2の総事業費のうち本件受益者負担金算出の根拠となつた事業費は一九億二三〇〇万円である。」を加え、三三枚目表八行目の「一番」を「一番一」と改める。)から、それをここに引用する。

二1  控訴人らの主張

(一)(1) 公共下水道の建設費及び維持管理費に雨水公費汚水私費の原則が適用されることは、既に昭和三六年の第一次下水道財政研究委員会(以下第一次委員会という)の提言(下水道財政に関する改善意見)において明らかにされているところである。いま、右改善意見を抜粋すると次のとおりである(乙第一一号証三〇五頁以下)。

(ア) 費用負担の基本原則について

<1> 雨水排除および低湿地帯の滞水の排除については、原則として、租税負担に帰する公費の負担とすることを適当とする。

<2> 汚水およびし尿の処理ならびに排除については、原則として個人の負担に帰せしめるのが適当である……。

<3> 経費の負担区分を算定する場合には、全施設を総合して考え、雨水排除施設については公費が、汚水の排除・処理施設については利用者が、それぞれ負担することが便宜である。なお、分流式の公共下水道については、雨水排除施設をも完全に整備するものとして、全体としてこの考え方を適用すべきである。

(イ) 費用負担区分の適用原則について

<1> 公共下水道の建設および運営に要する費用は、……建設費、維持管理費、減価償却費および地方債の利子にわけられる。

<2> 国、事業主体および受益者または利用者の三者で費用を負担する区分は、どの費用についてもその究極の負担が(ア)の<1>、(ア)の<2>および(ア)の<3>の原則に合致するように定めることを原則とする。

として雨水公費・汚水私費の費用負担原則を明確にし、当初建設費について受益者負担金をもつてあてる場合も右原則に則つて負担金を定めなければならないとしている。

また、第四次下水道財政研究委員会(以下第四次委員会という)は下水道維持管理費の負担区分につき「従来から確立された汚水私費、雨水公費の原則により賄うこととし」と述べて(同証一二九頁)、雨水公費負担の考え方は従来から確立された原則であると明言するとともに、更にこれを解説して「第一次提言以降汚水私費、雨水公費の負担区分が定着し」と説明し(同証一三〇頁)、また「雨水に係る経費は自然現象に起因するものであり、私人の負担に帰すべき性格のものでないので、全て公費で負担すべきである」旨述べているのである(同証一三〇頁)。

右のとおり、雨水の公費負担は、既に昭和三六年の第一次委員会において提言されており、大和郡山市の本件条例が成立したのは第一次委員会の提言より一〇年も経過した昭和四五年一〇月であり、その間に、「公共下水道の建設費についてみると、雨水排除に要する経費と汚水の排除・処理に要する経費との一般的な比率は、標準的な下水道計画に基づいて推定すると七〇パーセントと三〇パーセントとなるが、総合的に考えれば、公費の負担すべき部分は七〇パーセント以上となる」との昭和四一年の第二次下水道財政研究委員会(以下第二次委員会という)の提言を経ているのであつて、本件条例成立当時には雨水公費負担の考え方は広く定着し、確立された原則となつていたものである。

そして、この雨水公費汚水私費の費用負担原則が合流式・分流式の排除方式の如何にかかわらず適用されることは、下水道財政研究委員会の第一次からの提言の基礎となつている。

(2) ところで、公共下水道の建設費について都市計画法七五条の適用があるとしても、同条は、受益者負担金を「その利益を受ける限度」において負担させることができる、と規定するところ、公共下水道の場合、右のとおり、雨水に関してはそれが自然現象であり、汚染者負担の原則が適用できないことから公費負担とされるものであるから、同条にいう「事業に要する費用」とは「汚水分にかかる事業の経費」となることが明らかである。

そして、同条は受益者に負担させうるのは「事業に要する費用の一部」と規定するので、汚水分の事業経費の全額を負担金として賦課することは違法であるところから、汚水分のみに使用される分流式下水道につき、建設省ではその全事業費の三分の一ないし五分の一の範囲でこれを定めるものとしている。

また、通説は、右の負担割合につき、事業費の一部でさえあればそれがいくらであつてもよいというものではなく、同条の法理に照らして合理的な基準により適正な割合で定めなければならないものとしている。そこで、下水道事業の一つの考え方として、合流式の場合でも、本管等の基本的な部分は地方公共団体そのものに、また周辺住民一般にも公的利益として寄与するところから、「建設費の末端管渠整備費相当額を目途として負担金額を決定するのが受益者負担である」とすべきものとし(乙第一一号証一二頁、一二九頁。第四次委員会の提言)、現に実務でも、これを一つの負担金割合の合理的な基準として採用し、これがため前述の事業費の三分の一ないし五分の一の範囲で負担金を定めることとしているわけである。従つて、負担金の割合を、例えば、事業費の三分の一をはるかに越え、七〇パーセントとかに決定したとすれば、負担金の数額決定の合理性を欠き、同条に違反するものといわなければならない。

(3) これを本件についてみれば、大和郡山市の公共下水道は、通例の下水道である汚水分のみに関する分流式とは違い、雨水と汚水とを同時に排除する合流式であるので、先ず公費負担とされる雨水分を除いた汚水分にかかる全事業費を明らかにしたうえ、本件負担金がその事業費の何パーセントになるのかを明確にすることが、都市計画法上有効な条例であるというために必要不可欠であるというべきである。

しかるに、大和郡山市の本件条例は、雨水公費負担の原則を看過して漫然と受益者負担金の総額を合流式に要する事業費(従つて、公費負担とされる雨水分を含んでいる)の二五パーセントと定めるものである。

ところが、下水道における雨水分と汚水分との「経費比率」は、前記のとおり、一般的に雨水分が七〇パーセント、汚水分が三〇パーセントとされているので、本件合流式下水道事業のうち汚水分経費三〇パーセントが、都市計画法七五条の全事業費とならねばならないわけである。そして、右汚水分経費三〇パーセント相当額の三分の一ないし五分の一の数額が大和郡山市の場合の負担金額と定められてはじめて都市計画法上の適正負担金といえるものであるにもかかわらず、本件では前記のとおり雨水分経費七〇パーセントを含めた合流式事業費の二五パーセントをもつて負担金と決定したことから、汚水分経費の実に八三・三パーセントの負担金が賦課される結果となつたのである。

なお、被控訴人は、本件において郡山排水区第一次区域の総事業費から雨水排除の施設であるポンプ場建設費を控除したというのであるが、被控訴人はポンプ場という有形的可視的なものについてのみ雨水公費・汚水私費の原則を適用したものの、無形的であり且つ事業費の大部分を占める管渠工事費については、右原則を無視もしくは看過するという誤つた費用負担区分に基づき受益者負担金を決定したものであり、そのために合流式を採用した右第一次地域においては汚水分のみならず雨水分をも含めた管渠工事費の四分の一を受益者負担の対象としてしまつたのである。

(4) 以上のとおり、本件受益者負担金についてはその数額決定の合理性を欠き、都市計画法七五条に違反するものというべきである。

(二) 大和郡山市の合流式下水道建設費における雨水分と汚水分との経費比率は、被控訴人の主張するところによつても、六八・四パーセント対三一・六パーセントであることから、管渠工事費についての受益者負担割合をみれば、分流式を採用した筒井地区では汚水分管渠工事費の四分の一(二五パーセント)であるのに対し、合流式を採用した郡山排水区第一次区域では七九・一パーセント(〇・二五を〇・三一六で除した値)となり右第一次区域では筒井地区の実に三倍強の負担率という極めて不合理且つ不公平な結果となつており、行政裁量を逸脱した違法なものである。

(三) 本件条例は、これが都市計画法七五条に定める「利益を受ける限度で事業費の一部」を有効に負担させるものであることが立証されない限り、同条に基づく有効なものと認めることはできないものであるが、本件郡山排水区第一次区域において右のような負担をさせることとなるものであるから、本件条例は同条に基づく有効なものとはいえず、本件負担金賦課決定は、地方自治法二条一五、一六項により取消さるべきものである。

2  被控訴人の主張

(一) 雨水公費負担の原則は、第四次委員会の頃から住民の負担を軽減しようとする社会の風潮に従つて現われるに至つた考え方であつて本件負担金賦課決定当時はなかつた考え方である。また第四次委員会が雨水公費負担の原則を提言したのは下水道の維持管理費についてであつて、現在でも、雨水公費負担の原則は下水道の建設費用については妥当しない考え方である(被控訴人も下水道の使用料等については汚水私費・雨水公費の立場をとつているものである)。

しかも、本件下水道は合流式であるが、合流式では厳格な雨水分・汚水分の分別はそもそも不可能である。そして、本件区域はしばしば浸水・滞水被害が発生し、ために悪水が停滞し悪臭を放つ等非衛生的な地域だつたのであるが、それが本件下水道事業により飛躍的に改善されたのであつて、そのことによる控訴人ら地区住民の受益を雨水公費負担の原則という言葉で公費負担とすることは、結局右受益と関係のない住民に負担を転嫁することになり、かえつて不公平である。

なお、本件総事業費からポンプ場建設費用を除外しているが、それは佐保川の改修による自然流下への切り替えの可能性があり、未確定要素があつたからである。

(二)(1) 大和郡山市における本件公共下水道計画において、昭和四五年当時の全国平均事業費を基礎に算出した事業費の額は、

<1> 完全分流式とした場合には

一ヘクタール当り合計七九〇万円

内訳 汚水管分一ヘクタール当り二五〇万円

雨水管分一ヘクタール当り五四〇万円

<2> 合流式とした場合には

一ヘクタール当り六〇〇万円

となり、大和郡山市においては、検討の結果合流式を採ることに決定したものである。

合流式の建設費において雨水分と汚水分の経費割合を出すことはそもそも無理なことではあるが、もし完全分流式とした場合の汚水管分と雨水管分の単位面積当りの事業費をもつて合流式の汚水分と雨水分との費用に当てはめ得るとすれば、完全分流式とした場合の汚水管分と雨水管分の単位面積当りの事業費は右のとおり二五〇万円と五四〇万円とであるから、その比率は三一・六パーセントと六八・四パーセントとなり、合流式の汚水分と雨水分との費用の割合は右の割合となる。

(2) 本件事業の末端管渠費用は、何をもつて末端管渠というか定義自体明確でないが、一応管径五〇〇ミリメートル以下の管渠がこれに該当するとするならば、合計六億一七八四万七〇〇〇円であり、主要管渠費と末端管渠費の比率は六七・九パーセントと三二・一パーセントとなる。

第三証拠関係<省略>

理由

一  当裁判所も、控訴人らの本訴請求は理由がなく棄却すべきものと判断するものであり、その理由は、次の二に付加するもののほかは、原判決の理由に記載するところと同じである(ただし、原判決一五枚目表三行目の「甲第一〇号証」を「甲第一〇、一二号証」と改め、同四行目の「同久保赳の証言、」の次に「当審証人堀内將英の証言、」を加え、一六枚目裏六行目の「区分し、」の次に「(四)負担区の事業費の額は、<1>当該負担区と他の負担区に共通する施設に係る事業(以下共通事業という)に要する費用の額に当該負担区の地積の当該負担区と当該他の負担区の地積の合計に対する割合を乗じて得た額と、<2>当該負担区における共通事業以外の事業に要する費用の額から雨水ポンプ事業に要する費用の額を控除した額との合計額とし、」を加え、同行目の「(四)」を「(五)」と、同裏八行目の「(五)」を「(六)」とそれぞれ改め、一七枚目表七行目から八行目の「その見積り事業費総額を一九億二三〇〇万円とするもの、」を「その見積り事業費総額(即ち、総工事費)を、管渠工事費一九億二三〇〇万円(即ち、当初同工事費として予定されていた一九億八〇〇〇万円からポンプ工事費に入れられた五七〇〇万円を控除したもの)とポンプ工事費七億七二〇〇万円(即ち、当初同工事費として予定されていた七億一五〇〇万円に右五七〇〇万円を加算したもの)との合計二六億九五〇〇万円とするもの、」と改め、同枚目裏二行目の「(9)」の次に「第一次排水区の事業費(即ち、工事費)の額は、総工事費からポンプ工事費の額を控除した額、即ち管渠工事費の額である一九億二三〇〇万円であり、また」を加え、同裏四行目の「二〇一円」の次に「(その算式については二4参照)」を加え、二三枚目裏五行目の「賦課処分が」の次に「憲法八四条地方自治法二二三条の」を加え、二七枚目表六行目の「乙第三・五号証、」を「乙第三号証、」と改め、その次に「成立に争いのない乙第一〇ないし第一四号証、」を加え、同枚目表九行目の「公共下水道の維持管理費につき」を「公共下水道事業の費用負担につき」と改め、同枚目表一一行目から同枚目裏一行目の「妥当であるとしていること」の次に「(以上の点については後記控訴人らの当審での主張に対する判断2、3において更に説示する)」を加え、同枚目裏九行目から一〇行目の「第一区の事業費9,300億円」を「第一区の管渠工事費19億2300万円」と改め、二八枚目表七行目の「負担割合率」を「負担割合」と改め、同枚目裏八行目の「証言」の次に「、」を加え、その次に「当審証人堀内將英の証言」を加え、三〇枚目表九行目の「浸入」を「浸水」と改める)から、それをここに引用する。

二  控訴人らの当審での主張に対する判断

1  控訴人らは、公共下水道の建設費及び維持管理費については分流式・合流式を問わず雨水公費・汚水私費の原則の適用があることを前提として、受益者負担金について定めた都市計画法七五条にいう「当該事業に要する費用」とは公共下水道の場合には汚水分にかかる事業経費のみをさすものと解すべきであり、建設省も汚水分のみに使用される分流式下水道につきその全事業費の三分の一ないし五分の一の範囲で受益者負担金を定めるものとしているとし、したがつて本件下水道のような合流式の場合には、公共下水道における雨水分と汚水分との経費比率が一般に雨水七〇パーセント、汚水三〇パーセントとされているところからすれば、全事業費のうち汚水分三〇パーセントの三分の一ないし五分の一の範囲で受益者負担金を定めるべきものであるにかかわらず、本件条例は雨水分・汚水分を区別することなく全事業費の二五パーセントを、したがつて汚水分にかかる事業経費のみについていえばその八三・三パーセントを受益者負担とするものであつて、数額決定の合理性を欠き都市計画法七五条に違反する旨主張するので、検討する。

2  いずれも成立に争いのない乙第一〇ないし第一四号証及び原審証人久保赳の証言によれば、次の事実が認められる。

(一)  雨水公費・汚水私費の原則というのは、財団法人日本都市センターが下水道財政問題の学識経験者(官界を含む)により設置した第一次下水道財政研究委員会が昭和三六年に提唱した原則であつて、もとより確立した法律原則ではなく、法的には有識者グループの一の改善意見であるが、公共下水道の費用負担に関する基本原則として一般にその妥当性が承認され、行政運営に対して指針的役割を果しているものである。

その内容は、

イ 雨水排除及び低湿地帯の滞水の排除については、原則として、租税負担に帰する公費の負担とする。ただし、土地の利用価値の増進、地価の値上り等のかたちで特定の者が受益する限度においては、受益者又は利用者に特別の負担を課すことが適当である。

ロ 汚水の排除・処理については、原則として、個人の負担に帰せしめるのが適当である。ただし、公共用水域の汚濁防止等の行政目的を達成するために必要な限度においては、公費で負担することが適当である。

ハ 上記の原則的負担区分のうち、雨水を排除する施設について利用者の負担すべき部分と、汚水を排除・処理する施設について公費の負担すべき部分とは、ほぼ相殺することができる。

したがつて、全施設を総合して考え、雨水排除施設については公費が、汚水の排除・処理施設については利用者が、それぞれ負担すべきものとすることが便宜である。

というものである。

そして、第一次下水道財政研究委員会は、右原則の適用原則として、建設費について、雨水分、汚水分の占める経費比率をそれぞれ五〇パーセントずつと推定したうえで、当初建設費の五分の一ないし三分の一を受益者負担金とすべき旨提言したが、昭和四一年の第二次下水道財政研究委員会は、その後下水道の機能と工事単価の両面において雨水排除の比率が高まつたとして、右経費比率をおおむね雨水分七〇パーセント、汚水分三〇パーセントと推定しながらも、受益者負担金を賦課する場合の基準は原則として当初建設費の五分の一ないし三分の一とするのが適当であると提言した。

この雨水公費・汚水私費の原則は、下水道の方式が分流式であると合流式であるとを問わず適用されるものであるが、前記の内容からも明らかなように、右原則は、受益者負担金算定の基準として適用される原則ではなくして、当初建設費の中で受益者負担金の占める割合を定める基準をきめるにあたつて考慮される原則なのである。すなわち、前記各提言は、公共下水道の建設費を一旦雨水排除に要する経費(雨水分)と汚水の排除・処理に要する経費(汚水分)とに分析して考え、その当時の標準的な下水道計画に基づいて両経費の比率を一般的に推定してはいるけれども、そのことから直ちに当初建設費中受益者負担金の占める割合を算出するにあたつて雨水分を除外し汚水分のみを基準としているわけではなくして、右の両経費の比率を前提としつつ、現実の下水道設備の建設が経費の点で雨水、汚水の区別なく一体として実施されるものであることを考慮し、両経費を合わせた総建設費の中で受益者負担金の占めるべき割合を示そうとしているのである。したがつて、前記第一次、第二次の下水道財政研究委員会の提言で受益者負担金算定の基礎とされているのも、下水道設備全体の建設費であつて、そのうちの汚水分のみではない。このことは、右各提言がなんら限定を付することなく「当初建設費」の五分の一ないし三分の一といつていることや、第一次の提言が、「分流式の公共下水道については、雨水排除施設をも完全に整備するものとして、全体としてこの考え方(註、雨水公費・汚水私費の原則)を適用すべきである」といつていることからも明らかである。

(二)  政府は、第一次、第二次の下水道財政研究委員会の提言に基づき、(1)昭和四〇年一〇月二五日建設省都市局長・自治省財政局長通達をもつて受益者負担金制度の採用を示達し、(2)昭和四一年一〇月二八日建設省都市局長通達をもつて下水道事業受益者負担に関する標準省令案を提示し、(3)昭和四四年九月一日建設省都市局長通達をもつて現行都市計画法(昭和四三年法律第一〇〇号)により従来省令によつていた受益者負担金の徴収が条例によることとなつたことに伴い標準条例案を提示したが、これらの通達はいずれも、下水道の方式が分流式であるか合流式であるかを区別することなく、受益者負担金の総額を建設事業費の五分の一以上三分の一以下とすべきものとしており、殊に(3)の通達は「受益者負担金の対象とする事業は、原則として公共下水道に係る都市計画下水道事業のすべてとし、過年度の事業又は終末処理場、ポンプ場、遮集管渠等に係る事業を適用除外しないことが適当であること。」としている。

3  以上のとおりであつて、都市計画法七五条にいう「当該事業に要する費用」とは、公共下水道の場合、下水道の方式が分流式であると合流式であるとを問わず、雨水排除及び汚水排除・処理のためのすべての事業経費をさすものと解すべきである。雨水公費・汚水私費の原則を提唱した前記第一次、第二次の下水道財政研究委員会も、また、同委員会の提言を承けて提示された建設省の通達も、建設費について、分流式、合流式を区別することなく、汚水の排除・処理施設のみならず、雨水排除施設をも含めた全施設の建設費(したがつて、合流式の場合には、当然全建設費ということになる)の五分の一ないし三分の一を受益者負担金総額とすべきものとしていることは、前記認定の通りである。

したがつて、雨水公費・汚水私費の原則の直接の適用を前提として、「当該事業に要する費用」を汚水分にかかる事業経費のみをさすものとする控訴人らの主張は失当といわざるをえない。

4  もつとも、都市計画法七五条の「当該事業に要する費用」には汚水分、雨水分両経費が含まれると解すると、<1>分流式で雨水排除のための在来水路・開渠等が完備している場合と<2>分流式でもそうではない場合や合流式の場合とで、受益者負担金総額に差が出て来ることは否めない。

しかしながら、下水道の方式としていかなる方式を採るかについては、地形等による制約を受け、合流式以外の方式を採ることが技術的に不可能もしくは著しく困難な場合もあるのであり、また前記<2>の場合は<1>の場合に比して新たに下水道が建設されることによる区域内土地利用者の受益はより大であるのが通常である(けだし、<1>の場合は汚水排除・処理による受益だけであるのに対し、<2>の場合は雨水排除による受益も加わる)から、前記のような差のあることは、合流式の場合でも全施設の建設費の五分の一ないし三分の一を受益者負担金総額とすることの妨げとなるものとは解されない。すなわち、合流式の場合においても、前記雨水公費負担の原則は、全施設の建設費のうち残り五分の四ないし三分の二を地方公共団体が負担することとなることのうちに生かされているとみるべきものである。

そして、本件下水道について合流式を採用したのが地形等の制約からやむを得ない措置であつたこと及び受益者負担金総額を全事業費(但し、ポンプ場建設費を除く)の四分の一とし一平方メートルあたりの負担金を二〇一円としたのが相当というべきことは、原判決の詳細に説示するとおりである。

5  なお、控訴人らはまた、第四次下水道財政研究委員会の提言を援用して、受益者負担金総額は建設費のうちの末端管渠整備費を基準として算出すべき旨主張するようであるが、右提言は、本件条例制定後の昭和五四年になされたものであるのみならず、「負担金の総額の決定に当たつては、受益の範囲内で事業費の一部を負担するという原則に立脚しつつ、適正な受益者負担金制度を採用している各都市の負担の水準をも勘案して、例えば建設費の末端管渠整備費相当額を目途とすることなどが適当である。」と述べて末端管渠整備費を受益者負担金総額の算出基準の一つの例示としているにすぎない。したがつて、本件条例による本件受益者負担金総額の決定がその当時における受益者負担金制度採用各都市の負担の水準からしても妥当なものであること原判決認定のとおりである以上、仮にそれが末端管渠整備費と一致しないようなことがあるとしても、そのことを違法視することができないことはいうまでもない。

6  控訴人らは、更に、合流式を採用した郡山排水第一次区域と分流式を採用した筒井地区とでは、受益者負担金の割合が前者が後者の三倍強となつて極めて不合理且つ不公平な結果となつており、本件賦課決定は行政裁量を逸脱した違法なものである旨主張する。

当審証人堀内將英の証言によれば、筒井地区においては、雨水については地表の溝などを用いて排除し、汚水のみを下水管を用いて排除する方法の分流式(即ち、不完全分流式)を採用し、本件条例どおり、右筒井地区の受益者負担金総額を総事業費(即ち、右分流式下水道の建設費)の四分の一とし、右筒井地区の地積で除した額を受益者負担金の単価としたこと、が認められ、右認定に反する証拠はない。

しかしながら、下水道の方式としていかなる方式を採用するかについては、前記のとおり地形等の制約を受けるものであるところ、右第一次区域において合流式を採用した理由は既に説示したとおりであつて十分に合理性を有するものである(原判決理由二5参照)。このように、下水道の方式の採用に合理性があり、また前記のとおり受益者負担金総額の定め方にも問題がない以上、結果的に控訴人主張のごとく受益者負担金の負担割合に地区的な差異が生じたとしても、これを行政裁量を逸脱した違法な措置であるということのできないことは明らかである。

7  そうすると、当審における控訴人らの主張もすべて失当である。

よつて本件受益者負担金賦課決定処分は、いずれも適法であるから、これが取消しを求める控訴人らの本訴請求は理由がない。

三  以上の次第であるから控訴人らの本訴請求はすべて失当として棄却すべきところ、これと同旨の原判決は正当で本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小木曾競 露木靖郎 齋藤光世)

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